■ハーブとの出合いをきっかけに歩み始めた農業の道。
(文・仰木晴香/スロウ84号掲載/とっておきのレシピ、教えてください)
ビールの原料のひとつである、ホップ。独特な苦味と香りを付ける、ビールには欠かせない作物です。実は上富良野町は、北海道唯一のホップ産地。ビール会社による品種改良の研究も続けられ、戸数は少ないものの大規模な生産が行われています。そんなホップをハーブとして栽培しているのが、Nishio Farmの西尾菜緒さん、淳さんです。

子どもの頃から料理好きだったという菜緒さん。大好きな料理家のレシピ本を揃え、読み込んではレシピを再現していたそう。「食器にこだわったり、庭でハーブを育てて使うような丁寧な暮らしや、家族や友人のために料理を作っている様子にとても憧れて。いつしか自分も、料理のある空間や時間を作ることが好きになっていました」。
その一方で、学問に打ち込んできた一面も。高校で物理を学んだことをきっかけに、応用物理学の分野で研究に没頭しました。しかしあまりにハードな日々を過ごした結果、不眠症に悩まされるように。そんな時に出合ったのがハーブでした。「友達のお母さんが精神科の看護師で、相談したら『ハーブが不眠症の助けになる』と教えてくれて。ハーブにそんな効果があるんだ、と興味を持つようになりました」。初めて触れたハーブの世界に関心を抱いた菜緒さんは、休学してさまざまなボランティアに参加。ハーブと料理を中心に人々が交流する場を設けたり、ハーブを用いた緩和ケアに取り組んだりと、ハーブが人々の癒やしになっている光景を目の当たりにします。「活動を通して、体の不調を抱えている人がたくさんいるということを実感して。これから自分に何ができるのか考えました」。研究ひと筋だった菜緒さんは、改めて自分の将来に思いを巡らせます。ハーブの活動をもっと深めたい。学んできた再生可能エネルギーを実践したい。自然の中で暮らして、大好きな食に関わりたい…。これまで興味を持ってきたことを見つめ直した結果、辿り着いたのが農業でした。「農業という領域だったら、いろいろなことができるんじゃないかと考えるようになったんです」。
こうして大学を卒業後、淳さんとの結婚や子育てを経て、就農に向けて情報を集めていった菜緒さん。その中で目指したのは、野菜の宅配を通じて知り合った、上富良野町のとある有機農家のスタイルでした。「環境問題に関心を持ち続けてきたので、まず有機農業をやりたいという気持ちがありました。農業以外にもいろいろなことに取り組みたかったから、少量多品目というよりは、根菜や豆などの栽培しやすい作物を中心にしたくて。山に囲まれた景色にも惹かれました」。念願が叶い、その農家の隣の土地で研修を始めたのは2016年のこと。2年間の研修期間を経て、 2018年、Nishio Farmとしての営農をスタートしました。農家になるという目標は達成したものの、農地の制度や経営のノウハウなど、身に付けるべき知識や経験は山のようにありました。そこでまずは経営を安定させ、農家としてこの地域に根を張ることに力を注いだ2人。「地域にとっても久しぶりの新規就農でしたから、まずは馴染まなくちゃって。一生懸命に人参作ったよね!」と菜緒さん。設備を揃え、借地だった土地も7年かけて買い取り、基盤を固めていきました。

■趣味で育て始めたホップを、多くの人に届けるために。
野菜の栽培に励む傍ら、育てていたのがホップです。菜緒さんがホップの存在を知ったのは、学生時代にハーブに出合ったときのこと。「ハーブのレシピ本にホップの料理が出てきて、どんな味がするんだろうと気になっていました」。就農した上富良野町は、偶然にもホップの産地。ビール会社が持つ研究農場の職員と知り合いになり、苗の入手経路を教えてもらうこともできました。「ちょっと植えてみようか」と気軽な気持ちで海外から苗を取り寄せ、畑の端に植えてみることに。

ホップの苗はハウスの中で育て、苗の状態でも販売しています。今年は新たに3品種を増やし、12品種のホップを育てる計画だそう。

ホップの形をきれいに保つため、収穫はすべて手作業で行います。「高いところは三脚を使って収獲します。ちょっと大変なんですが、やっぱりハーブですから、見た目は大切にしたくて」。
趣味として育て始め、愛でていたホップ。その様子が新聞で紹介されたところ、全国から販売の問い合わせが殺到。ホップのニーズに気づいた2人は、販売に向けて品質管理や量の確保を目指すようになります。最初は収獲したてのフレッシュなホップを卸していましたが、徐々に需要が増えたため、乾燥させて通年で出荷することに。大切にしたのは、ホップの色と香りです。「ハーブとして使ってもらうものなので、色と香りが命なんです。ホップは色と香りが劣化しやすいハーブで、香りが飛んで茶色く変化してしまう。このきれいな緑と豊かな香りを保ったまま乾燥させて、さらに長期保管するにはどんな方法が良いのか。かなりの時間をかけて研究しました」。
こうしてドライホップの商品化を果たすと、菜緒さんの中には、「もっと多くの人にホップを楽しんでもらいたい」という新たな思いが生まれました。「 料理人の方に使ってもらうと、斬新で芸術的な料理になることが多かったんです。『こんな食べ方があるんだ!』って発見ができて面白かったけど、自分が出合ったハーブのレシピ本で紹介されていたように、家庭で気軽に使うことはできないのかな?って」。調味料として日常的に使える、ホップソルトを作りたい。相談してみると、ひとり、またひとりと、協力者が集まっていきました。6次化のコーディネーター、塩やビールの専門家、昆布漁師…。多くの人の協力により、2024年2月、ホップソルトが完成しました。
■ハーブとしてのホップを楽しんでもらいたくて。
完成したホップソルトは4種類。これは農場で育てていた9品種のホップと道産の20種の塩の組み合わせから選び抜いたものです。品種により、ホップの香りや風味の強さはさまざま。塩と合わせることでそれが引き立つものもあれば、逆に薄れてしまうものもあったそう。「品種ごとの違いが面白くて、柑橘系の香りがするものを中心に品種を増やしてきました。それが今では強みになっていますね。料理に合わせて使い分けできるのが良いところです」と淳さん。

香りを確かめてみると、そのはっきりとした違いに驚きます。グレープフルーツのように爽やかなカスケード、ビターでどっしりとしたセンテニアル、個性的なソラチエース…。「ホップって、ハーブという印象があまりないと思うんです。北海道だと野生のホップが生えていたりもしますが、見慣れていても食品として使うイメージはないのかなって。でも実はとても香りが良くて、いろいろな味わい方ができる、奥が深い作物。だから『ホップを食べることは楽しいよ!』って伝えていきたいです」。菜緒さんはそう、笑顔で話してくれました。
今回、ホップソルトと野菜を詰め合わせた、スロウオリジナルセットを作ってくれることに。「まずはフライドポテトでシンプルに試すのがおすすめ!」ということで、Nishio Farm自慢のじゃがいもが必ず入っています。

爽やかな香りがふわりと漂い、口に含むと独特の苦味が後から広がります。
瓶を開けて香りを堪能したら、料理にパラリとかけてみてください。素材を引き立たせる苦味、食欲をそそる爽やかな香り、料理に彩りを添える鮮やかな緑。ハーブとしてのホップの魅力に、きっとハマってしまうことでしょう。
■セット内容紹介
ホップソルト1つと、じゃがいも3 品種を含む野菜6 品種をセットでお届け。セットの野菜は、じゃがいものほか、人参やかぼちゃ、さつまいも、落花生などから旬のものをセレクト。夏は暑く、冬は寒い盆地ならではの気候が、おいしい野菜を育てます。時期によってはハーブが加わることも。
ホップソルトは4 種類の中からお好みのものを選べます。ホップを使ったさまざまな料理を試してみてくださいね。

・カスケード
グレープフルーツのような爽やかな香り。サラダや蒸した野菜、焼き鳥や蒸し鶏によく合います。
・ファッグル
ミントなどの清涼感に近い風味。卵料理や、キノコや魚介類などの天ぷらとの相性がバツグン。
・センテニアル
鋭く尖った柑橘系の香りが特徴。味がしっかりしたステーキやBBQ、刺身に合わせるのがおすすめ。
・ソラチエース
レモングラスに近い、穏やかかつ個性的な味わいです。どんな料理にも合い、特にイカや白身魚の刺身にぴったり。
■作り手 Nishio Farm(上富良野町)

西尾菜緒さん、淳さん。2.6ヘクタールの畑で、農薬や化学肥料を使わない有機農業を営んでいます。栽培のメインは、かぼちゃやじゃがいも、人参などの秋野菜です。
■商品詳細
・ホップソルト
内容量:30g
原材料:海塩(北海道産)、有機ホップ(北海道上富良野町産)、粉末昆布(北海道羅臼産)
賞味期限:製造より1年
セット内容:ホップソルト×1、じゃがいも3品種、野菜やハーブ3品種
■宅急便60サイズ(冷蔵)
3セットまで同一の送料でお届けします。
※8月10日〜 11月30日までの販売です。
■お届けまでの時間目安
ご入金確認後、10営業日以内で発送予定
■熨斗
対応不可