■暮らしに馴染む木工クラフト
(文・仰木晴香/スロウ84号掲載/北のものづくり人)
大雪山を望む、東神楽町の畑作地帯。そこでポツリと工房を構えているのが、工房アームズの青柳勲さん、ゆき子さんです。農家の所有地だったという敷地内には、ギャラリーや自宅、それに小さな畑まで。「まだまだ全部が発展途上ですよ。今度は倉庫を改装して、アトリエ兼事務所を作りたくて。やリたいことはいっぱいあるけど、ゆっくり楽しみながら続けています」。スロウ編集部が初めて2人を訪ねたのは、 2013年のこと。それから40年以上経った今も、自らの手を動かす喜びを感じながらものづくりをする2人がいました。

工房に併設したギャラリーは、納屋として使われていた建物をリノベーション。ゆき子さんは大のDIY好き。「柱を全部削って、断熱材を入れて壁や床を貼って…」と話すその表情は、活き活きとしていました。
元々ものづくりに興味があった勲さん。作り手の道へ進むきっかけとなったのは、木工職人だった叔父が経営する木工クラフトの流通会社で働き始めたことでした。「仕事でさまざまな作り手さんを訪ねて話を聞いたり作業現場を目にするうちに、さらにものづくりに惹かれていきました。こんな機械を使ってくり抜いたり組み立てているんだ、という発見も楽しかったし、何より職人さんが高い精度で仕上げていく技術に憧れが募っていって。やっぱり自分でもやってみたいなって」。業界全体で若い作り手が不足していたという背景もあり、叔父もその思いを後押し。他社の工場で修業を始め、勤めていた会社でもオリジナル商品の開発に携わるようになりました。3年後には会社の自社工場も設立され、勲さんは本格的に作り手として働くようになります。

一方のゆき子さんも、ものづくりの道を歩んできた人です。子どもの頃から図画工作が好きで、「木のおもちゃを作ってみたい」という思いから、大学では美術を専攻。卒業後は旭川の職業訓練校でさらに技術を磨き、家具メーカーや染色工房で経験を積んできました。
共にものづくりに励んでいた2人は、催事をきっかけに出会い、意気投合。結婚して2年目に、工房アームズとして独立を果たしました。ゆき子さんがデザインをし、勲さんが形にする。2人で一つのものを仕上げるのが、工房アームズのスタイルです。

工房内には、木工機械や加工の際に使用するさまざまな形状の治具類(補助工具)がズラリ。
掲げたテーマは「暮らしの中で活きるもの」を作ること。独立した当時は木工クラフトがブームで、どんな小物でも「木を使っていたら売れていた」時代だったそう。重視されていたのは、質よりも量。しかし2人が目指したものづくりは違っていました。「流れ作業のように同じものを作り続けるより、オリジナリティのある作品を一から自分たちの手で作りたかったんです。やっぱり、作ることが好きでしたから」とゆき子さん。ブームとして消費されるものではなく、世代を超えて使ってもらえるものを作りたい。木の経年変化も楽しんでもらいたい。 2 0 0 9 年に旭川市内から現在の場所へと移り住んでからは、さらにその思いが強くなったと言います。「自然に囲まれた環境で、ロングライフなものづくりをより意識するようになりました。メンテナンスできるのも木の良いところですから、修理しながら長く手元に置いてもらえたらうれしいなって」。
そのために追い求めてきたのが「使い心地の良さ」。トレーや小箱などのシンプルな日用品から動物をモチーフにした可愛らしいものまで、ゆき子さんがデザインを手がける作品の一つひとつに、譲れないこだわりや美意識が込められています。使いやすさを考えた厚み、丈夫で見た目も美しい仕上げ…。それを叶えるのが、勲さんの高い技術力です。木は時間が経つと温度や湿度によって狂いが生じてしまいますが、勲さんは使う材料の状態によって一つずつのパーツのサイズや形を調整。経年による素材の直線の狂いを最小限に抑えています。トレーの継ぎ目を撫でてみると、スッと手に馴染む滑らかさで、その緻密さを実感します。

アームズ としてデザインを考え、製作をほかの工房に依頼することもあるそう。「作り手が減り、若い人が成長する機会も少ない中で、作り手どうしの横のつながりを大切にしたくて。それぞれの技術が合わさることで作品の幅も広がります」。
最近ではより繊細なデザインの継ぎ目にも挑戦しているそう。「きれいなんですが、木が欠けやすいんです。結構な技術力を要するデザインで…」と勲さんが話せば、「彼ならできると思っているんです。間違いなく技術力が上がっていますから」とゆき子さん。互いの仕事への信頼とリスペクトがあるからこそ生み出される、木工クラフト。2人分の思いと技術が込められた作品は、精密で美しく、温かさに満ちています。
■商品紹介

シカやクマといった北国の動物が描き出されたブックスタンド。「動物をモチーフにするなら、より自然な風景で描きたい」と、木の枝や草まで細かく表現。部屋の片隅に、穏やかな森の風景を作り出してくれます。ゆき子さんがデザインし、糸鋸で切り出して制作。 線が細かいため、ストッパーは付けずに作業しています。「細かいですが、自分で作るからこそ挑戦できたデザインです」。

仕上げには自然塗料のオスモカラーを使用。小さな子どもがいる家庭でも安全に使えるように、との心遣いからです。
モチーフ、材質はそれぞれ2種類。お好みのものをお選びください。


■作り手 工房Arms(東神楽町)

青柳勲さん、ゆき子さん。2003年に工房アームズとして独立。始めは下請けの仕事がメインでしたが、工房として初めての作品「フクロック」がヒットしたことをきっかけに、オリジナル商品をメインに制作するようになったそう。
■商品詳細
商品サイズ:縦11.5×横12.5×高さ19.8cm
商品素材:ウォルナット、オーク
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