■30代から歩み始めた、パン屋への道
(取材・文 仰木晴香/スロウ82号掲載/あのまちの、あの人が焼く 今日のパンと焼き菓子)
一見普通の住宅にも見える建物の扉を開けると、そこはおいしそうなパンの香りに包まれた空間でした。北広島にあるパン屋、太郎山。自家製の天然酵母を使った素朴なパンが並ぶ中、特に目を引くのは、両手で抱えないと持てないほど大きくてずっしりとしたカンパーニュ。「うちがいちばんのメイン商品として焼いているパンです」と、店主の田中賢太郎さんは笑顔で話してくれました。
田中さんが「パン屋」という仕事に出合ったのは31歳のとき。「それまではいろんな仕事を転々として、ふらふらしていました」。転機が訪れたのは「山が好きだから」という理由で働いていた山梨県のキャンプ場が経営難におちいり、転職を余儀なくされたことでした。次の仕事は何をしよう。考える中で思い浮かんだのは、ある情景でした。「キャンプ場で、子ども向けにダッチオーブンでパンを焼くワークショップをやっていたんです。教えるのは別のスタッフで、自分は焚火台に火をこしながらそれを眺めていました。その時にぼんやりと『パンって良いなあ』と思っていたんです」。楽しそうに生地を捏ね、焼きあがったパンの香りやふんわりと膨らんだ姿に歓声を上げ、おいしそうに頬張る子どもたち。パンづくりを通して子どもの五感が磨かれている光景が、田中さんの心に強く残っていました。「パン屋に挑戦してみたい」
早速東京で働ける場所を探し 始めましたが、未経験の田中さんを雇ってくれる店はなかなか見つかりません。粘り強く探し続け、ようやく受け入れてくれた一軒のパン屋で、まずはサンドイッチづくりから担当することに。しかしパン屋での仕事は、田中さんにとって想像以上に大変なものでした。朝早くからの仕事、慣れない作業、そして周りの同年代は経験者ばかり。辛い日々が続きました。
そんな田中さんにパンづくりの楽しさを見出すきっかけをくれたのは、ある職人の「昨日のパンと今日のパンの違いってわかる?」という言葉。パンを切り出しながら断面を確かめてみると、パサッと乾燥している日もあれば、もちっと水分を感じられる日もあることに気が付きました。「スタッフが多い店だったので、同じパンでも日によって違う人が作業をしていたんです。材料も機械も作る時間も一緒なのに、人が違うとパンが違う。衝撃的でした」。それからはただ作業をこなすのではなく、触れるパンをよく観察するようになった田中さん。パンづくりの奥深さに夢中になっていき、次第に「自分もパンを焼いてみたい」という思いが芽生え始めました。
ようやくパン生地に触れることが叶ったのは、働き始めて3年目のとき。さまざまなパンを担当し、5年目の頃には一通りの種類を作ることができるまでに。もっと経験を積みたいと次のステップとして選んだのが、天然酵母パンの先駆けとも言われる店「ルヴァン」でした。
■暮らすようにパンを焼く」日々の中で。
天然酵母だけで焼き上げるルヴァンのパンは、それまでの店のパンよりも、毎日の生地の違いがよりはっきりと感じられるものでした。発酵の進み具合も均一ではなく、環境に左右されやすい天然酵母生地やパンの仕上がりに違いが出る要素が増えたことで、パンづくりがより面白く感じられるようになったと言います。
加えて田中さんが驚いたのが、「働く」ということへの向き合い方。「ルヴァンでは毎日、スタッフのみんなで一緒に食事をとるし、店がオープンしている間でもきちんと食事の時間を設ける。特に食という面で、パンづくりと暮らしが一緒になっていたんです」。天然酵母と同じように、人も自然な存在。だからどれだけ忙しくても「食べる」ということを疎かにせず、暮らしを大事にする。田中さんは「ゆっくりと、暮らすように」パンを焼く日々を過ごしました。
最も重要な酵母の管理と生地づくりを任されるようになった頃に田中さんは独立を決意。 43歳のときでした。子どもの進学に合わせて出身地の北海道へと戻り、実家がある札幌の周辺で場所を探しました。そうして2021年の12月、北広島で太郎山をオープンさせたのです。
■自分が良いと思える材料でパンを焼く。
ルヴァンでの日々で、パンと共にある暮らしの豊かさを経験した田中さん。そこで感じた心地良さを大切にする姿勢は、素材の選び方やパン屋としてのスタンスに表れています。
写真上/小麦は道内や長野県などで栽培されたものを12種類使用。うち6種類を自家製粉しています。これにより、パンの香りや味がより豊かになるそう。
使う小麦は自然栽培や有機栽培で育てられた、国産のもの。一部は小麦のまま仕入れ、自家製粉して使用します。混ぜ込むドライフルーツなどの素材も、多くが有機栽培や国産です。
写真上/継ぎ足して使っている自家製酵母。粉の種類や水分量によって4種類の酵母を 使っています。
重要な天然酵母は全部で4種類。パン生地を発酵させるときは、できるだけ室温に置いておくのだそう。「自然な流れに任せたほうが、おいしく出来上がると思うんですよね。人工的に温度や湿度を調整できる機械の中に入れるよりも、ありのままで置いてあげるほうが、酵母も健やかに育つ気がするんです」。
■カンパーニュをいつか手に取ってくれたら。
田中さんが特に思い入れを持って焼くカンパーニュの材料は、自家製酵母と水、塩、そして小麦だけ。シンプルだからこ そ、素材や酵母の味をいちばんダイレクトに味わえるパンです。一方で食パンや豆パンといった柔らかく食べやすい、日本人に馴染み深いパンも作り続けたいと考えています。「自分が好きなのはシンプルなパンですが、いろいろな種類のパンを焼くことで、豆パンを買い続けていた人がいつかカンパーニュを手に取って好きになってくれるかもしれない。誰かがカンパーニュに出合うきっかけを提供できるパン屋になりたいんです」。
身体に良い素材を取り入れることの心地良さや、シンプルに作られたものの魅力。自分が大事にしたいことを最も強く込めたカンパーニュ。押し付けるのではなく、自然とそのおいしさに気づいてもらえたら。「自然な流れを大事にしたい」という田中さんの思いは、パンを取る人々に対しても同じなのです。
「いつかは店内でもパンを食べてもらえるようにしたいです。パン1枚にジャムやハチミツを付けて、気軽な感じで。そうし て『家でもこうやって食べてみたいな』って、普段のごはんの一つとして取り入れてもらえるような提案をしていきたいです」。パンは人の暮らしをつく るもの。そんな実感を持っている田中さんが焼き上げるパンは、食べる人の、そして田中さん自身の暮らしを、より豊かにかたちづくっています。
■セット内容紹介
クロワッサンや食パンなどの柔らかなパンを加えたセット。いろんなタイプのパンを食べてみたいという方に。朝食にもぴったりです。
・全粒粉のクロワッサン:パリパリザクザクとした食感と、全粒粉の香ばしさがおいしい。大きめサイズもうれしいポイント。
・角食パン:はちみつと生クリームでしっとり仕上げた食パン。低温長時間発行で、小麦の甘みを引き出しています。
・あんずとホワイトチョコのスコーン:アプリコットの酸味とホワイトチョコの甘みが調和。
・カンパーニュ:自家製粉した無農薬全粒粉と3種類の自家製酵母を使い、 香ばしく焼き上げられたパン。噛むほどに味わいが増します。
・ハードパン:いちじくとくるみのライ麦パンか柚子とくるみのライ麦パンのどちらかをお届けします。
■作り手 太郎山(北広島市)
田中賢太郎さん、妻の美菜さん、息子の燦登くん。取材日に仕込んでいたのは、クリスマスに向けたシュトーレン。柔らかな生地を丁寧に扱う手を止めることなく、話を聞かせてくれました。店名の「太郎山」は、田中さんが修業していたルヴァンがある長野県上田市の山の名前から名付けたそう。
■商品詳細
賞味期限: 製造より冷凍で1ヶ月
原材料:
・全粒粉クロワッサン/小麦粉(国内製造)、全粒粉(国内製造)、バター、酵母、グラニュー糖、はちみつ、塩
・キタノカオリ角食パン/小麦粉(国内製造)、全粒粉(国内製造)、生クリーム、グラニュー糖、酵母、はちみつ、バター、塩
・あんずとホワイトチョコのスコーン/小麦粉(国内製造)、全粒粉(国内製造)、酵母、グラニュー糖、有機干しあんず、ホワイトチョコチップ(砂糖、植物油脂、乳糖、全粉乳、米でん粉、ココアバター、乳化剤(大豆由来)、香料)ホワイトチョコレート(ココアバター、砂糖、脱脂粉乳、乳化剤(大豆由来)、香料)、塩
・カンパーニュ/小麦粉(国内製造)、全粒粉(国内製造)、酵母、塩
セット内容:
全粒粉クロワッサン、キタノカオリ角食パン、あんずとホワイトチョコのスコーン、カンパーニュ 1/4、ハードパン×各1
■宅急便80サイズ発送(冷凍)
1セットまで同一の送料でお届けします。
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ご入金確認後10営業日で発送予定。
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