(文・立田栞那/スロウ74号掲載)
エゾシカ、エゾリス、ナキウサギ。前島拓也さんが作る木製のパズルのモチーフは北海道で暮らす13匹の野生動物たち。ヒグマやアザラシは大きく、エゾリスやナキウサギは小さく、実際の身体の大きさも考慮したサイズ感で木製の枠にぴったりと収まっています。

写真上/塗装には「オスモカラー」という、人体や動植物に害のない植物性のオイルを使っているので、小さな子どもと一緒に遊ぶ際も安心です。
「動物のパズル」という言葉を聞いたとき、どちらかと言えば子ども向けのおもちゃという印象を受けましたが、「もちろん、家族みんなで遊んでくれたらうれしい。でもこの作品は、大人の方にこそ楽しんでほしいと思っています」と、前島さんは話します。ピースの数自体は少なめなので、簡単に完成させられるかと思いきや、遊んでみると意外と頭を使うもの。道産のサクラ材の色味や木目はそのままに、デザインもシンプルなので、インテリアとして飾っておいても楽しめます。動物好きの友人への引っ越し祝いなどに贈っても喜ばれそうですね。
中学2年生のときに美術の授業で木工と出会った前島さん。高校生の頃には2年がかりでベンチを制作するなど、家具を中心とした制作活動を続けてきました。大学卒業後、旭川市科学館「サイパル」で木工担当として働いたことをきっかけに、小物も手がけるように。「子ども向けの体験教室で、糸のこを使った作品づくりを教えていたんです。そこで、Animal Puzzleのアイデアが浮かんできて」。仕事の傍(かたわ)ら、自身の作品としてデザインを起こし、何度も何度も線の調整を重ねながら完成に辿り着きました。

写真上/バランス良く組み立てれば、こんな風に立体的に飾ることも。※写真はウォールナット材です。今回扱う商品とは材の種類が異なります。(写真提供/前島商店)
前島さんが作りたいのは、「目で見ても美しく、触ったとき、使ったときに良さがわかるもの」。今回のパズルも「模様を入れたりはせず、デザイン的には点と線という少ない要素で構成されるもの。その分きれいな線を出すことを大事に、動物たちもひとつずつ丁寧にヤスリがけしている」そうです。見た目の美しさはさることながら、一つひとつのピースに触れると手にしっとりと馴染むよう。いつまでも触れていたくなるような心地良さです。
前島さんが妻の野原さんの地元である新得町に移り住み、前島商店としての活動を始めて6年が経ちます。家具づくりの過程で出た端材や小さな材はパズルやカトラリーなどの材料へ。小物づくりの過程で出る細かい端材は薪ストーブの燃料へ。最後に残った灰は春先、山菜のあく抜きに使ったり、畑に撒いて肥料にしたり。新得での暮らしとものづくりとの結び付きは、より深くなっているようです。
「2年ほど前、家の裏の大きなクルミの木を伐り材料にした経験から、『できるだけ身の回りにあるものを使おう』と、意識的に道産材を選ぶようになりました」。ものづくりにおける根本的な考え方はそのままに、より自然に、暮らしに寄り添って。山と畑に囲まれた小さな工房で、今日も前島さんはものづくりと向き合っています。